あたらしいらくご(2)
あたらしいらくご(2)
2012年1月10日 投稿者:日高 美恵 カテゴリ:らくごくら
学校の先生、会社員、主婦など落語台本に応募する人もバラエティに富んでいる。時間に余裕のある年配の方がやはり多いが、高校生の応募も以前あった。今回の応募作の約6割が関西圏から、3割が関東圏からのものだが、北海道から九州まで応募者のエリアは幅広い。加えて今回はオランダ在住の日本人女性からの応募もあったそうだ。CDやDVD、インターネットなどの発達で遠方の人でも気軽に何度も上方落語を楽しめるようになったことも多くの人が落語台本を書く要因の一つかもしれない。
毎年、入選作や最終選考に名を連ねる“常連さん”が複数いるし、放送作家やタレント、漫才師の人の応募も目を引く。「2丁拳銃」の小堀裕之さんは上方落語台本だけでなく、東京のコンクールでも受賞歴がある常連の一人で、受賞作の小堀作品はすでに何人かの落語家によって各所で演じられている。入選には到らなかったが、今回、ある人気漫才師の作品もかなりいいところまで残っていたそうだし、前回はタレントの杉岡みどりさんも入選を果たしている。自身が演者だけに、組み立て方やコツなどがわかっているのだと思う。最近は芸人さんに限らず、素人の人で落語を演じる人も多く、その中には自作の落語を演じて好評を博している人も多くみられるようになった。
それぞれの職業、それぞれの生き方を軸に落語を創るとその幅もぐっと広がるだろう。実際の経験というのは強い。あまり専門的すぎては受け入れにくいかもしれないだろうが、ほかの人では気づかない独自の視点と経験や知識がリアリティを持たせ、新鮮さや面白みが増すのだろうと思う。そういう意味では落語家に転身した「世界のナベアツ」改め桂三度さんが創る新作落語も今までのものとは違ったタイプの落語を生み出してくれそうで、大いに期待してしまう。
「10年先、20年先もできるような、練り上げたらおもしろくなるような作品を待っています。身の回りにあるようなものをテーマに噺を構築してもらえたら」と三枝さんは話していた。「ストーリー展開があること、テーマがあること、おもしろいものがあって、今までになかった形、サゲがすとんと落ちること」というのが前回、三枝さんが入選に向けて挙げた条件だ。よく考えると、これはそのまま三枝落語に当てはまっている。“創作落語の天才”である三枝さんが創る落語はとても身近で、普遍的だ。身近なだけに自分にも作れそうに思えるが、三枝さんレベルの作品を作るのはかなり難しい。創ることと演じること。その両方の才能を備えているのは本当に一握りの人だ。
その意味においても、落語作家の存在は重要だ。そしてその筆頭は何と言っても小佐田定雄さんだ。亡くなった桂枝雀さんにいくつもの名作を提供し、その後も多くの落語家に新作を書いてきただけではなく、米朝師匠も厚い信頼を寄せ、多くの落語家が自身で演じようと思う落語の見直しや再構成をする際にアドバイスを頼んでいる。親切で気さくな人柄で多くの人から信頼を受け、誰からも愛される唯一無二の存在だ。小佐田さんが会社員をやめ、落語作家に専念されなかったら今の上方落語の状況はどうなっていただろうと思うこともしばしばだ。
これまでに数多くの落語を創ってきた小佐田さんだが、時代を古典落語とほぼ同じ時代に設定して創ることがほとんどだ。中途半端な時代に設定すると時代の流れに遅れてしまい、かえって古臭く感じられるという。落語家が増える中、小佐田さんが急務と感じ、友人の荻田清さんとタッグを組んで2009年から始めたのが「超古典落語の会」だ。江戸時代の咄本や明治時代の速記などから、現在では上演されていない噺を発掘し、現代に蘇らせ、落語家が実際に演じるという試みだ。荻田清さんは小佐田さんとは大学時代からの友人で、歌舞伎などを研究する大学教授が本業だ。2008年に久しぶりに二人でお酒を飲んだ時に小佐田さんがこの企画を提案し、実現することになった。
二人が最初に決めたことは「珍品」はやらないということ。「できるだけみんなができるものを創ろう」ということで演者とも相談し、著作権もフリーにしているという。「気に入った人は誰でもやってください」という粋な心意気だ。元ネタの発掘は学者である荻田さんが担当。そして、荻田さんはこれを機に落語を書き始めた。大学で落研に所属して高座の経験があり、落語の研究もしていた荻田さんだけにツボは心得ている。この会は2009年秋にスタートして以降、年に約2回を開催するスタンスで続けられている。小佐田先生、荻田さんの二人で始めたが、途中から落語作家のくまざわあかねさんが加わり、今年の2月で5回目を迎える。毎回4席、2月の公演分も加えるとトータルで20席が生み出されることになる。半ページくらいの元本から出来上がった落語の素晴らしい出来ばえに驚かされることもしばしばだ。この会で生まれた落語が各所で演じられるなど広がりもみせている。
この会は「レベルを保つ」ことを基本に、当初から5回でいったん区切りをつけることを決めていたそうだ。第一次の「超古典落語の会」は2月の公演でいったんピリオドを打つが、元ネタが集まり次第、再始動することになっている。膨大な本の中から使えるものを探し出す作業はたいへんだが、早々の再開を待ちわびるファンも多い。現代を描く新作は演じる期限が限られるものも多いし、演じることに抵抗がある落語家も多い。だが、この会で作られた噺なら「昔あった落語だから」という理由で手掛けるハードルもぐっと下がる。時代設定といい、内容といい、古典でピカイチの腕を持つが新作には二の足を踏むという演者も遠慮なく演じることができるだろう。「超古典落語」は色褪せない新作だ。今までの新作とは違う位置に立ち、誰にでも門戸を開いた「超古典落語」という分野の広がりを願ってやまない。


