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彦八まつり(2)
2011年9月13日 投稿者:日高 美恵 カテゴリ:らくごくら
毎年9月の第1土曜、日曜に開催される上方の落語家の文化祭&ファン感謝デー「上方はなし 彦八まつり」では、指揮を執る実行委員長が上方落語協会員の中から年替わりで選ばれる。その実行委員長が中心となって、その年の祭りで行うイベントなどを企画するため、誰が実行委員長になるかで祭りのカラーがずいぶん変わってくる。ここが“恒例のお祭り”なのに毎年味わいが違い、飽きがこない要因の一つだろう。21回目を迎える今年は桂梅團治さんが実行委員長を務めた。
桂梅團治さんは上方落語界きっての「鉄っちゃん」。鉄道マニアだ。鉄道マニアにもいろいろ種類があるそうで、梅團治さんの場合は撮影を主とする「撮り鉄」、中でも“専門分野”はSLだ。車に機材を積んで、撮影のために日本全国に足を運ぶ。落語会とセットにして撮影のスケジュールを入れることも多く、職業ドライバーでもないのに、今の愛車の走行距離は2年間半で約15万キロだというから熱の入れようも半端ではない。地球が1周4万キロ。この車で2年半の間に地球を4周近く回った計算になるというから驚きだ。始発列車の雄姿を山の上などから撮影するために車の中で寝泊まりすることもあるため、職務質問を何度も受けていると梅團治さんは笑う。
5、6年前からデジカメも使い始めた梅團治さんはSL以外の写真も撮るようになった。写真の腕前は「鉄道写真展」が各所で開かれるほどで、毎年、年末には厳選した写真を掲載したカレンダーを作っている。梅團治さんは上方落語界で「乗り鉄」として知られる桂しん吉さんとの「鉄ちゃん」色満載の落語会「鉄の世界」を毎年開いているが、この会は梅團治特製のカレンダーをプレゼントにするために12月に開かれることが決まっている。
8月に開かれた「彦八まつり」の発表会見での梅團治さんの満面の笑みが印象的だった。「好きなことをしていいと言われましたので」と梅團治実行委員長が今年の彦八まつりで企画したのはミニSLの体験乗車だ。そのミニSLを繁昌亭の舞台に登場させ、会見と彦八まつりのプレイベントの落語会が開かれた。「噺家になって、SLの前で落語をしゃべるのが夢でした。でも、気ぃ取られてあかん(笑)!」とマクラで笑わせ、演じたのは自作の鉄道落語「切符」。「鉄の世界」で披露するために作り、今やいろいろな落語会で演じる持ちネタになっている。趣味と実益の結実だろう。
披露されたミニSLは笑福亭仁勇さんの知り合いの方がすべてのパーツを入手し、5年がかりで作ったという。本物のSL、C62を1/12に縮小したもので、内装までかなり精巧に作られ、本物と同じく石炭を燃料にして走る。“シロク二”と呼ばれるこのC62は、最後はニセコで走っていたそうで、梅團治さんはその写真を撮りに行って崖から落ちて死にかけたことがあるという思い出深い(!?)SLだ。そのC62に4人掛けの客車を連結して走らせるという。生國魂神社の隣の公園に120メートルの線路を敷き、木々を眺めながらぐるっと一周する魅力的な企画だ。
残念ながら台風12号の影響で、今年の「彦八まつり」の初日(3日)は中止となった。例年、「彦八まつり」は「雨天決行」を謳い、多少の雨でも続けられてきたが、今年は台風到来を予期していたかのように、「荒天中止」が事前に定められていた。中止となったのは開催21年目にして初めてのことだった。雨に祟られはしたものの、4日は予定どおり開催された。3日に予定されていたイベントのほとんどは中止となったが、元々雨天順延の予定だったSL体験乗車は4日に開催された。
整理券が配られ、老若男女がC62に曳かれた客車にまたがって短い旅に出た。あちこちに水たまりができ、地面が緩く不安定だったため、係の人が脱線しないように列車を抑えて徐行運転をした。途中に撮影ポイントまで用意してある心配りが梅團治さんならではのことだった。見物客が手を振り、乗客は笑顔で手を振りかえす。梅團治さんはシャッターを切り続けている。予定の走行回数を終えたあと、まだ石炭の火が残っていたので、私も追加便に乗車させてもらった。風を切りながら、ゆっくり走るミニSLの旅は爽快だった。それまで見ていた風景とはまた違う景色が目の前に広がり、あっという間にゴールに到着した。みんな草履や靴が泥にまみれても気にしない。誰もが懐かしい昔、純粋な子供の心に戻り、嬉々として楽しんでいた。
走行が終わり、石炭が片づけられたあとも、そこにいる全員が名残惜しい思いで列車を囲んでいた。口々に精巧な作りやSLの薀蓄を語り合い、何種類かある正面につけるプレートを変えては写真を撮っていた。片づけのために、線路を止めるねじをひとつひとつ外し始めたのを見て、泥だらけの地面にこれだけの線路を敷いた地道な作業に圧倒された。ねじや泥にまみれた線路をきれいに洗い、片づけるのにどれだけの時間と労力がかかるのだろう。楽しく乗車しただけの自分が申し訳ないという気持ちでいっぱいになったほどだ。そんな損得や苦労を度外視したピュアな志が“鉄道魂”なのだろうと思った。
恒例となっている企画に加え、今回から「笑うこと」を競う「笑い相撲」もスタートした。これは去年の実行委員長の桂ざこばさんの発案で、名物にしていきたい企画だという。SL体験乗車は梅團治さんならではの企画なので、もうSLが公園を走ることはないだろう。落語ファンがSLと出会い、鉄道ファンが落語と出会う。新しい出会いがフィールドをぐんと広げていく。来年の「彦八まつり」は9月1日、2日に開催される。来年はいったいどんな出会いがあるのだろうか。


